バッハ以前のドイツ・カンタータ
「バッハ以前のドイツ・カンタータ」(コレギウム・ヴォーカレ、フィリップ・ヘレベッへ、harmonia mundi FRANCE、HMC 901703)
「カンタータ」と言えば、バッハの「教会カンタータ」が有名であるが、もちろんそれはバッハから始まった音楽ではない。バッハ以前から存在する音楽である。
今日でいう「カンタータは」、ドイツ・バロック期のルター派の宗教的声楽曲で、ルター派教会の礼拝における音楽の中心である。今回紹介するCDは、シュッツからバッハに至るやく00年のカンタータ作品を聴くことができる。
1)フランツ・トゥンダー(1614 - 1667)
・「主はわが光」(詩篇第27)
・「主よ、御恵みによりて御身の怒りを翻し給え」
・「われらが神は堅き砦」
2)ヨハン・クーナウ(1660 - 1722)
・「神よ、御慈しみによりて」(詩篇第51)
3)ニコラウス・ブルーンズ(1665 - 1697)
・身を横たえて眠り行かん
4)クリストフ・グラウプナー(1683 - 1760)
・「主よ、湖の波が高まり」
このCDではそのやく100年間の歩みの重要な作品を通して辿ることができる。ここに収録された6曲のレパートリーは、歌詞の面では聖書あるいはコラールのみを作曲したものから、そのそれぞれに自由詩を組み合わせたものにわたり、音楽的にはルネサンス的に厳格的な対位法で編まれた曲から17世紀初頭にイタリアで発達した自由なモノディーの採り入れた曲まで多岐に渡っている。
(CDの解説より)
1)フランツ・トゥンダー(1614 - 1667)
17世紀中期に活躍、北ドイツ学派の基礎を作った作曲家。1632年に北ドイツのゴットルフ宮廷オルガニストに就任。1641年に北ドイツ、リューベックの聖マリア教会のオルガニストに就任し、職を全うした。礼拝音楽以外に、「アーベント・シュピール(夕べの演奏)」を開き、オルガン曲だけでなく、声楽曲や器楽曲も取り上げたと言われている。もちろんこの「アーベント・シュピール(夕べの演奏)」は、ブクステフーデの「アーベント・ムジーク(夕べの音楽)」へと引き継がれる。
このCDに収録された曲のうちの二曲は、いわゆる「コラール・カンタータ」(コラールの歌詞だけでなく旋律も作曲に用いた変奏曲の一種)である。
2)ヨハン・クーナウ(1660 - 1722)
元々は弁護士をしていたが、音楽好きから24歳の時にライプツィヒのトマス教会のオルガニストになり、1684年に聖トマス教会のトマス・カントールに任命された。この後を継いだのが、あの大バッハである。ここでは紹介しないが、彼の作品で有名なものは、「聖書ソナタ」であろう。
教会カンタータにおいて、クーナウは歌詞の面では新しいノイマイスター・タイプの自由詩を作曲しているが、音楽的には当時全盛であったオペラのすべての要素を排除し、純粋な教会様式の維持に勤めた。
3)ニコラウス・ブルーンズ(1665 - 1697)
彼の父はトゥンダーに師事している。この父から音楽の手ほどきを受けており、1681年からブクステフーデに師事している。オルガン、ヴァイオリン、ヴィオラ・ダ・ガンバの演奏に長けており,鍵盤楽器と声楽曲のための作曲家として知られている。1689年にフームズの市立教会のオルガニストに選ばれたが、34歳という若さで亡くなった。そのため声楽曲は12曲しか伝えられていない。ここで収録されている曲は、彼の唯一のコンチェルト・アリア・カンタータである。
4)クリストフ・グラウプナー(1683 - 1760)
ヨハン・シェレ、クーナウに師事し、1708年末にダルムシュタット宮廷の副学長として、1712年からは楽長として50年以上に渡って仕えた。
彼の時代においては、宮廷礼拝堂、教会に関係した音楽家は、毎日曜日と祝日に演奏されるカンタータを教会暦に沿って、一年分ずつまとめて年間として作曲することが望まれた。そのため彼は1400曲以上の教会カンタータを残している。
このCDではわずか4人しか紹介されていないが、それぞれが師弟関係にあったり、その時代に即した教会カンタータを作曲しているところが、バッハに至るまでの教会カンタータの簡単な歴史として聴くことができる。
今回は紹介していないが、
「J.S.バッハ以前の聖トーマス教会のカントールの作品集」(コンラート・ユングヘーネル(指揮&リュート)、カントゥス・ケルン、Deutsche Harmoni mundi 1572 77203 2)
でも、聖トーマス教会のトマス・カントールの音楽を聴くことができる。
・ゼバスティアン・クニュプファー:
「Ach Herr, strafe mich nicht」「Es haben mir die Hoff artigen」
・ヨハン・シェッレ:
「Das ist mir lieb」「Ach, mein herzliebes Jesulein」「Barmherzig und
gn adig ist der Herr」「Aus der Tieffen rufe ich, Herr, zu dir」、
・ヨハン・クーナウ:
「Gott, sei mir gn adig nach deiner Gute」「O heilige Zeit」
このCDについては、「私的CD評」さんの「バッハ以前のトーマス・カントールのカンタータ」で詳細を知ることができる。いつものことながら、拡張高い文章、深い洞察には感服以外の言葉が出てこない。もっと聴き込まねばと反省しきりである。もちろん、今日の記事も昨日と同じ動機で、「バッハ以前のトーマス・カントールのカンタータ」に触発されて書いたものである。
いずれにしても、昨日のブクステフーデの記事でも書いたが、大バッハに至る音楽を知ることは重要である。それはバッハを崇めるためだけではなく、優れた音楽の変遷、他の作曲家への影響とそれによって産まれた素晴らしい音楽への敬意であると思う。それはバッハで完成された音楽ではなく、それぞれがその時代や背景によって光り輝いた尊い音楽なのである。ルターは音楽は神への賛辞であると考えていたから、コラールを重視した。それを考慮するだけでもバッハの先駆者の音楽に目を向けることは重要である
演奏:
ソプラノ:デボラ・ヨーク、スーザン・ハミルトン
アルト:ダニエル・テーラー
テノール:ヤン・コボブ、ブノワ・アレル
バス:ペーター・コーイ
コレギウム.ヴォーカレ
指揮:フィリップ・ヘレベッヘ
録音:1999年9月、聖ジル教会(ブリュージュ)


トゥンダーやブルーンスといった北ドイツの音楽家のカンタータを収録したこのCDは、興味深いものですね。
グラウプナーは、バッハとともにトーマス・カントールの地位を争った人物ですね。彼はかつて聖トーマス学校の生徒で、ライプツィヒ大学で法律を学んでおり、ご説明されているように、シェレとクーナウの教えを受けていましたので、バッハより優位に立っていました。しかし最終的に、グラウプナーの雇い主、ヘッセン=ダルムシュタット方伯が手放さなかったため、バッハにお鉢が回ってきたといういきさつがあります。「私的CD評」で紹介したCDとは、クーナウしか重複していませんし、このCDは聴いてみたいですね。
コメント時刻: 2008年05月21日 10:39