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不当評価を与えられた楽器〜リコーダー

2008年06月26日

わたくしは、ド素人レベルだけれども、バロック・ヴァイオリン、フラウト・トラヴェルソ、リコーダーを演奏する。普段音楽の話しをしていると、何か楽器をしてるの?と質問を受けることがあって、その際に、「バロック・ヴァイオリンとかフラウト・トラヴェルソとかリコーダー」と答えると、相手の顔に明らかに変化が見られる。古楽を聴きない人には、フラウト・トラヴェルソはわからないが、ヴァイオリンとリコーダーはわかる。ヴァイオリンというと、「おっ!」という顔をされるが、「リコーダー」となると、ある種バカにしたような顔をされることが多い。

先週の土曜日の深夜にたまたまテレビを見ていたら、関西のお笑い芸人のコンビが出ていて話しをしていた。その一方のお父さんが定年後にリコーダーを始めたという話しをした途端、会場から大爆笑。もちろん彼は笑いを取るためにネタとして話したのではない。単に父がリコーダーを始めたと言っただけなのだ。その笑いには、「リコーダーに対する侮蔑」以外の何ものも感じなかった。またその相方は、「そんなもんやめさせろや!」と笑いながら言っていた。あまりに不快だったので、すぐにテレビを消した。

古楽を聴く方々にとって、リコーダーは別に特殊な楽器でもなく、レベルの低い楽器でもないことは充分にご承知のことだと思う。それでも一般的にはリコーダーという楽器は、ヴァイオリンと比較などされると(比較自体意味が全くないが)、まったく歯が立たない状態にある。その一因は小学生がぴーひゃらぴーひゃらと学校の帰りに吹きながら帰ってくることにあると思っているのだが・・

さて、このリコーダーだが、実際に演奏してみると、とてつもなく難しい楽器であることがわかる。とてもシンプルな楽器故に余計に「たちが悪い」と言ってもいいくらいに演奏が難しい。だからクラシックのことをよく知っている人は、リコーダーは難しいよね、と言う。

上で小学生のリコーダーのことを書いたが、昨年近所のバーで飲んでいた時のこと。その店は、お客さんがあまりいないときは、持って行ったCDをかけてくれた。マスター自体がヴァイオリンを長年やっているせいもあって、クラシックをかけることには寛容であった。その時に持っていったのが、レオンハルト、ブリュッヘン、ビルスマらによる「バッハ:ブランデンブルク協奏曲」であった。その4番を聴いていた時に、近くにいた女性が、

「この綺麗な音の楽器なんですか?」

と聞いてきた。「リコーダーですよ」というと、思い切りびっくりしていた。そう、リコーダーの音色は素晴らしいのである。バッハ自身はリコーダーのための曲を書いていないが、様々なところで使っている。そしてバロック期には普通に使われている楽器であった。楽譜に「フルート」と記載されている場合「リコーダー」を意味していることが多かった。バロックから古典派へと移行していく際に、演奏団体の編成も大きくなり、音の弱いリコーダーの出番は少なくなっていった。フラウト・トラヴェルソでさえ、美しい音色を具えた楽器であったのに、ベームの改良によって、大音量の出るデリカシーのまったくない楽器へと変えられてしまった。

いつものように愚痴をだらだらと書いてしまったが、今回はリコーダーの魅力にどうしても触れて頂きたい。もちろん演奏者は、現18世紀オーケストラの指揮者である「フランス・ブリュッヘン」である。彼はリコーダーだけでは(彼はトラヴェルソの名手でもある)、自分のやりたいことを表現できないといって、リコーダー、トラヴェルソから離れて、オケの指揮者となった。

幸いなことに今でも彼の素晴らしい演奏は入手可能である。

今回はその中から、

「涙のパヴァーヌ〜オリジナル楽器によるリコーダー作品集 第1集(TELDEC, WPCC-5665)」

1:リコーダーと通奏低音のためのソロ ト長調(パーチャム)
2:涙のパヴァーヌ(ファン・エイク)
3:リコーダーと通奏低音のためのソナタ ハ短調 (ルイエ)
4:リコーダーと通奏低音のための組曲 ト長調 (デュパール)
5:ファンタジー[第1番ハ長調、第10番イ短調](テレマン)

演奏:
ブロックフレーテ:フランス・ブリュッヘン(アルト・リコーダー;ファン・アールデンベルク制作、J. H. アイヒェントップフ制作、P. I. ブレッサン制作、ソプラノ・リコーダー;テルトン制作、P. I. ブレッサン制作)
ヴィオラ・ダ・ガンバ:ニコラウス・アーノンクール(ヤコブ・プレハイスン、ウィーン、1670年制作)
チェンバロ:グスタフ・レオンハルト(1700年頃イタリア製キール・フリューゲルによるレプリカ、M. スコヴロネク制作)

今回は一枚だけ紹介したが、テレマンやヘンデルもリコーダーのための曲をたくさん書いていて、どれも実に素晴らしい。またヤコブ・ファン・エイクは盲目の作曲家であったが、リコーダー作品をたくさん残しておりその全集も販売されている。

なおブリュッヘンがリコーダーを演奏しなくなって久しいが、それも彼の偉大さのおかげでまだいくつかのCDが入手できる。

ブリュッヘン / リコーダーの芸術(12CD)
1960年代から1970年代にかけてのステレオ録音。天才リコーダー奏者として大活躍していた時代のブリュッヘンの音楽を集大成。ピリオド楽器にこだわった元祖ともいえる彼の演奏を特徴付けるのは、超絶技巧はもとより、なによりもその絶妙な節回しの感覚といえるでしょう。  ここでは、名プロデューサー、ヴォルフ・エリクソンの手になるダス・アルテ・ヴェルク時代の録音が集められており、ブリュッヘン自身が発掘した作品も含め、リコーダーやトラヴェルソのための膨大な数の作品が収録されています。共演もビルスマ、レオンハルト、アーノンクールなど実に豪華です。


CD1
テレマン:リコーダー・ソナタ集
(1)ソナタ ヘ長調
(2)幻想曲ニ短調
(3)カノン風ソナタ変ロ長調
(4)幻想曲ト短調
(5)ソナタ ハ長調
(6)幻想曲イ短調
(7)幻想曲ハ長調
(8)ソナタ ヘ短調
(9)幻想曲変ロ長調
(10)ソナタ ニ短調
(11)幻想曲ヘ長調
(12)ソナタ ハ長調

フランス・ブリュッヘン(bf)
アンナー・ビルスマ(vc)
グスタフ・レオンハルト(hc)

CD2
ラ・フォリア~イタリアのリコーダー・ソナタ集
(1)コレッリ:ラ・フォリア
(2)バルサンティ:ソナタ ハ長調
(3)ヴェラチーニ:ソナタ ト長調
(4)ビガリア:ソナタ イ短調
(5)シェドヴィユ:ソナタ ト短調
(6)マルチェルロ:ソナタ ニ短調
(7)コレッリ:ソナタ ヘ長調
(8)ヴェラチーニ:ソナタ イ短調

フランス・ブリュッヘン(bf)
アンナー・ビルスマ(vc)
グスタフ・レオンハルト(hc)

CD3
イギリスのコンソート音楽集
(1)ホルボーン:5声の舞曲とエア
(2)タヴァナー:4声のイン・ノミネ
(3)タイ:5声のイン・ノミネ
(4)バード:5声のイン・ノミネ
(5)シンプソン:4声のリチェルカーレ「愛らしく優しいロビン」
(6)バード:5声のブラウニング「木々の葉は青く」
(7)モーリー:2声のファンタジー「回転花火」
(8)モーリー:2声のファンタジー「嘆き」
(9)モーリー:2声のファンタジー「狩り」
(10)ジェフリーズ:3声のファンタジア
(11)パーチャム:ソロ ト長調
(12)カー:イタリアのグラウンドによるディヴィジョン
(13)ベイベル:7声の協奏曲ニ長調
(14)ペプシュ:ソナタ第4番ヘ長調
(15)パーセル:グラウンド上の3声部

フランス・ブリュッヘン(bf)
ブリュッヘン・コンソート
グスタフ・レオンハルト(hc)
ニコラウス・アーノンクール(gamb)、他

CD4
涙のパヴァーヌ~初期バロックのリコーダー音楽集
(1)エイク:戦争
(2)エイク:「最も美しい娘ダフネが」による変奏曲
(3)エイク:涙のパヴァーヌ
(4)エイク:イギリスのナイチンゲール
(5)フレスコバルディ:カンツォーナ「ラ・ベルナディーナ」
(6)チーマ:ソナタ ニ長調
(7)チーマ:ソナタ ト長調
(8)リッチョ:4声のカンツォーナ イ長調
(9)リッチョ:カンツォーナ イ長調「ラ・ロシニョーラ」
(10)シャイト:4声のパドゥアーナ ニ長調
(11)作者不詳:ソナタ ト長調

フランス・ブリュッヘン(bf)
ケース・ブッケ(bf)
ワルター・ファン・ハウヴェ(bf)
アンナー・ビルスマ(vc)
ウォルター・メラー(vc)
グスタフ・レオンハルト(org)
ボブ・ファン・アスペレン(org,cem)

CD5
後期バロックの室内楽曲集
(1)テレマン:四重奏曲ニ短調
(2)ファッシュ:四重奏曲ト長調
(3)ルイエ:五重奏曲ロ短調
(4)クヴァンツ:トリオ・ソナタ ハ長調
(5)A.スカルラッティ:ソナタ ヘ長調
(6)マッテゾン:ソナタ ト短調

フランス・ブリュッヘン(bf)
ヤンネッテ・ヴァン・ヴィンゲルデン(bf)
ケース・ブッケ(bf)
ワルター・ファン・ハウヴェ(bf)
アンナー・ビルスマ(vc)
ウォウター・メラー(vc)
グスタフ・レオンハルト(cem)
ボブ・フォン・アスペレン(cem)、他

CD6
フランスのリコーダー音楽
(1)デュパール:組曲ト長調
(2)オトテール:組曲第1番
(3)デュパール:組曲イ長調

フランス・ブリュッヘン(bf)
ケース・ブッケ(bf)
ニコラウス・アーノンクール(gamb)
アンナー・ビルスマ(vc)
グスタフ・レオンハルト(cem)

CD7
恋のうぐいす~フランスのリコーダー音楽集
(1)ラヴィーニュ:ソナタ ハ長調
(2)ボワモルティエ:ソナタ ヘ短調(ニ短調)
(3)フィリドール:ソナタ ニ短調
(4)ドルネル:ソナタ 変ロ長調
(5)クープラン:恋のうぐいす

フランス・ブリュッヘン(bf)
アンナー・ビルスマ(vc)
グスタフ・レオンハルト(cem)
ケース・ブッケ(bf)
ワルター・ファン・ハウヴェ(bf)

CD8
ヴィヴァルディ:リコーダー協奏曲集
(1)協奏曲ニ長調RV94
(2)協奏曲ニ長調RV92
(3)協奏曲ト短調RV105
(4)協奏曲ハ長調RV87
(5)協奏曲イ短調RV108
(6)協奏曲ハ短調RV441
(7)協奏曲ヘ長調RV442

フランス・ブリュッヘン(bf)
ユルク・シェフトライン(ob)
オットー・フライシュマン(fg)
アリス・アーノンクール(vn)
ワルター・プファイファー(vn)
グスタフ・レオンハルト(hc)
ニコラウス・アーノンクール(vc,指揮)
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
アムステルダム合奏団

CD9
ヘンデル:リコーダー・ソナタ集
(1)ソナタ イ短調op.1-4(HWV362)
(2)ソナタ ハ長調op.1-7(HWV365)
(3)ソナタ 変ロ長調(HWV377)
(4)ソナタ ト短調op.1-2(HWV360)
(5)ソナタ ニ短調(HWV367a)
(6)ソナタ ヘ長調op.1-11(HWV369)
(7)トリオ・ソナタ ヘ長調op.2-4(HWV389)

フランス・ブリュッヘン(bf)
アリス・アーノンクール(vn)
アンナー・ビルスマ(vc)
ニコラウス・アーノンクール(vc)
グスタフ・レオンハルト(hc)
ヘルベルト・タヘッツィ(hc)

CD10
テレマン:リコーダー組曲&協奏曲集
(1)序曲イ短調
(2)協奏曲ハ長調
(3)6声の協奏曲ヘ長調

フランス・ブリュッヘン(bf)
ニコラウス・アーノンクール指揮
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス

CD11
バッハ:リコーダー作品集
(1)協奏曲ヘ長調BWV1057
(2)トリオ・ソナタ ト長調BWV1039
(3)協奏曲イ短調BWV1044
(4)カンタータ第106番
(5)カンタータ第182番

フランス・ブリュッヘン(bf)
ニコラウス・アーノンクール(vc)
ヘルベルト・タヘッツィ(vc)
グスタフ・レオンハルト(cem,org)
レオンハルト・コンソート、他

CD12
リコーダー・ソナタ&協奏曲集
(1)ルイエ:ソナタ ハ短調
(2)サンマルティーニ:協奏曲ヘ長調
(3)ヘンデル:トリオ・ソナタ ロ短調
(4)ノード:協奏曲ト長調
(5)ルイエ:ソナタ ト長調
(6)テレマン:協奏曲ホ短調

フランス・ブリュッヘン(bf,指揮)
アリス・アーノンクール(vn)
ニコラウス・アーノンクール(gamb,vc,指揮)
アンナー・ビルスマ(vc)
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
アムステルダム室内管弦楽団、他

という素晴らしいセットも出ている。

さて、リコーダーであるが、さすがにオリジナル楽器は高価で手が届かないが、実際のところバロック時代で用いられていたのは、アルト・リコーダーが多かった。中学生になって学校の音楽の授業で演奏された方も多いであろう。もちろん、ピッチは440なので、当時のピッチよりは高いけれど樹脂製なら3000円も出せば買える。木製のものは少し価格があがり最低一桁上がってしまうが、木独特の暖かい音が得られる。
ちなみに、バロック・ピッチのものも国内で生産しているところがある。「竹山リコーダー」だ。関西のメーカーであるが、関東だと「ギタルラ社」などにも置いてあると思う。

上がわたくし所有しているリコーダーで、上から樹脂製、木製(ピッチ440)、竹山リコーダー(ピッチ415)である。
実際にレッスンに行くのが一番いいのだが、そうもいかない方のために一つ紹介しておこうと思う。「リコーダーJP」が出版している「アルトリコーダー ステップバイステップ』(全3巻)」というシリーズがある。楽譜だけでなく、模範演奏のCDもついていて、初心者レベルから上級へと進めるようになっている。また、教則本以外にも、たくさんのリコーダー用の楽譜も販売されているので、興味のある方は是非訪問してみていただきたい。

さて最後に、上にリコーダーがバロック期が終わるとともに公から姿を消したと書いたが、その後いかに復興されてきたかということを簡単にまとめた本が出ているので紹介しておく。

「リコーダー復興史の秘密 ドイツ式リコーダー誕生の舞台裏」(安達弘潮著、音楽之友社)