「Handel ; Arias for... Cuzzoni・Durastanti・Senesino・Montagnana」(Nicholas McGegan, harmonia mundi HMX 2908284.87)
今年はヘンデル没後250年ということで、CDショップに行くと、ヘンデルのCDがたくさん並んでいるのを見かける。このブログでも過去3回、ヘンデルのCDを紹介した。今回は、ヘンデルの大作、オペラに関するCDを紹介したいと思う。
ヘンデルは生涯に45作のオペラを作曲した。様々な録音があるが、古楽でしっかりとした演奏となると、ミンコフスキやアラン・カーティスがCD数枚組もの大作を録音している。こうした作品を一つずつ聴いていくことは、ヘンデルのオペラの美しさを知るにはいいのだが、実際のところ、CD3枚組や4枚組となると、かなり体力を必要とする。そこで邪道だが、いい方法(?)がある。
ヘンデルのオペラは、アリアが実に美しいと言われている。実際に「ヘンデルのアリア集」なるCDはたくさん存在する。特にソプラノ・アリアに関するCDはかなりあって、メゾ・ソプラノの、コジェナーやキルヒシュラーガーなんかが有名だろうか・・・。そうしたアリアを聴いてみるということだ。もちろんオペラであるから、長くとも一作を聴き通して、その物語をしっかりと把握することは大切である。
もちろん声楽人は、ソプラノだけでなく、アルト、テノール、バスもあるので、そちらも併せて聴いてみたくなる。そういう方にうってつけのCDが今回紹介するCDである。
ヘンデルは大作をたくさん作曲したが、そのアリアを歌う歌手の存在が非常に大きかったらしい。今回紹介するCDでは、そうした4人の歌手に焦点を当てている。
一枚目は、フランチェスカ・クッツォーニ。ヘンデルがイタリアから呼び寄せた「わがまま」なプリマドンナ。声をかけてから、イギリスにやってくるまで、ヘンデルは2年も待ったらしい。「オットーネ」の第1幕「偽りの肖像」を歌うことを拒んだ彼女に業を煮やしたヘンデルが、「女悪魔」と揶揄った彼女を窓から放り投げようとしたという話は有名らしい。結局彼女は歌うことになり、それが彼女の代表作となった。
容姿はかなり「残念」だったそうだが、当時の聴衆から「お腹にナインチンゲールを飼っている」と絶賛ほど、素晴らしい歌声だったらしい。リサ・サッファーがこのCDでは歌っている。かなりビブラートを多用した癖のある歌い方をする。ロマン派的な歌い方なので、好みが別れるかもしれない。
「ロデリンダ」「オットーネ」「フラーヴィオ」「タメルラーノ」などからの選曲
二枚目は、ドゥラスタンテで、彼女もイタリア出身。ヘンデルはオペラのアリアだけでなく、天地創造やカンタータなどのアリアでも彼女のために曲を書いている。メゾ・ソプラノのロレイン・ハントがCDでは歌っている。
「アグリッピーナ」「ラダミスト」「ムツィオ・スケヴォラ」「オットーネ」「アリアンナ」などからの選曲
三枚目は、カストラートであったセネシーノ。当時最高のカストラートとされたファリネッリのライバル(?)でもあった。ファリネッリはヘンデルのオペラを歌わなかったが、セネシーノがヘンデルの曲を歌ったのは、そのライバル心からか?CDではカウンターテナーのドリュー・ミンターが歌っている。
「ジュリアス・シーザー」「ロデリンダ」「フラーヴィオ」などから
4枚目は、バスのアントーニオ・モンタニャーナ。非常に広い音域を持っていたとされ、HMVの解説によると、彼のために2オクターブに渡る超絶のアリアを書いたとのことである。CDではデイヴィッド・トーマスが歌っている。
「エツィオ」「ソサルメ」「エステル」「オルランド」などからの選曲となっている。
こうして聴いていくと、ヘンデルはある声部のためにアリアを書いたというよりは、自分の頭の中にある特定の歌手の存在があって、その声や技量に合わせて曲を書いたという感じを受ける。もちろんCDであるから、ヘンデルが元々想定した歌手が歌っているわけではなく、わたくしが感じた限りでは、1、2枚目では明らかに歌手側の技量に不満が残る。それとは対照的に、3、4枚目は実に美しい。特に4枚目は個人的に気に入った。もちろんこれは好みの問題でもあるので、絶対的なことではない。
ざっと「アリア」という点だけでヘンデルのオペラを眺めたが、このCD集に限らず、今年はたくさんのアリア集が出ているので、何枚か聴いてみて、その美しさを堪能できたら、そのアリアが含まれる曲を通して聴いてみられてはいかがだろか。上述のように、ヘンデル・イヤーのおかげで、たくさんのオペラが発売され、しかもかなりの廉価である。ミンコフスキやアラン・カーティスの録音を選んでおけば無難であると思う
CD1:リサ・サッファー(ソプラノ、録音:1990年11月)
CD2:ロレイン・ハント(メゾ・ソプラノ、録音:1991年10月)
CD3:ドリュー・ミンター(カウンターテナー、録音:1986年11月)
CD4:デイヴィッド・トーマス(バス、録音:1989年9月)
指揮;ニコラス・マギーガン
フィルハーモニア・バロック・オーケストラ
ヘンデル:オラトリオ『メサイア』(1742年ダブリン初演版);ダンディン・コンソート&プレイヤーズ、ジョン・バット(指揮)、Linn Records、CKD 285
この季節に、恐らく数多く演奏され、また親しまれている曲が、このヘンデルの「メサイア」がその一つであろう。全曲を聴いたことがない方でも、ハレルヤ・コーラスの部分は耳にされたことがあると思う。
多作曲家であったヘンデルの作品の中でも、かなり有名な部類に入るだろう。1727年2月20日にイギリスに帰化したヘンデルが、1741年8月に作曲にとりかかったのが、このメサイアである。1759年にヘンデルが亡くなるまで、毎年上演されていたと言われているから、当時から相当人気のある曲であったことがわかる。自筆譜から、1741年8月22日に作曲を開始し、9月14日に完成しているらしい。一月もかからずに作曲したことになる。ヘンデルは作曲するスピードが早いことで知られている(?)が、こうした大作を一気に書き上げる集中力はすさまじいものであったのだろう。
イギリスに帰化したヘンデルであったが、この曲の初演は、アイルランドのダブリンであった。作曲を開始した翌年の1742年4月13日のことである。アイルランド総督から招待されたダブリンでの慈善事業の一環として行われたものであったが、小さなミュージック・ホールでの演奏であったにも関わらず、700人もの聴衆を集めるなど大成功を収めたとされている。ホールが小さかったため、ホール内は満員、街頭にはホールに入場できない人であふれかえっていたらしい。
これほど盛況を得たメサイアであったが、イギリスでの初演はそれほど評価が高かったわけではないらしい。しばらくは「不評」に耐える時期が続いたものの、上演を続けることで、次第に評判を勝ち得たと言われている。1750年以降は評価が高くなり、人気が出たとされている。
この曲は、3部構成のオラトリオで、歌詞が「英語訳の新約聖書」によって書かれている点も注目すべきことであろう。それまでのヘンデルは、旧約聖書をもとにして物語を作り上げることが多かったが、この曲では新約聖書をもとにしている。
有名なハレルヤ・コーラスの際に、感極まった国王ジョージ2世が立ち上がったため、他の聴衆も同様に立ち上がったため、以後このコーラスの際は、立って聴くことが習慣になったと言われているが、実際は後のことであったらしい。
さて、このダブリン初演版が、他の稿とどう違うのかということをここで述べるのは難しい。総譜自体にも、何度も加筆修正されているからである。現在10種類の稿が知られている。どの稿を使用するかは、演奏者に一存されることとなる。その一覧が、
「『メサイア』使用楽譜一覧表」
に詳しく記載されているので、そちらを参照されたい。
なお、自筆総譜は、イギリスの大英博物館が所有しており、閲覧申請書とエリザベス女王宛の誓約書を提出すれば閲覧できるそうだ。
演奏は、イギリスの音楽家ジョン・バット率いるスコットランドのダンディン・コンソート&プレイヤーズ。大人数の合唱ではなく、限りなく歌い手の人数を少なくしているが、しっかりとまとまっている。ソプラノの声がボーイ・ソプラノのような声も印象に残る。バスもかなり重厚な声質だ
スーザン・ハミルトン(ソプラノ)
アニー・ギル(メゾ・ソプラノ)
クレア・ウィルキンソン(アルト)
ニコラス・マルロイ(テノール)
エドワード・キャスウェル(バス)
ダンディン・コンソート&プレイヤーズ
ジョン・バット(指揮)
「ヘンデル:合奏協奏曲集 Op.3」(リチャード・エガー&アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージック、Harmonia Mundi、HMU907415)
ヘンデルの作曲したいわゆる「合奏協奏曲」で有名なものは、「作品6」であろう。これについては、今回取り上げる作品とは異なるのはで、「私的CD評」さんの「ヘンデルの合奏協奏曲作品6」の記事をご覧頂きたい。
さてこの作品は、1734年にウォルシュから出版されたものである。
・第1番変ロ長調 HWV312
・第2番変ロ長調 HWV313
・第3番ト長調 HWV314
・第4番ヘ長調 HWV315
・第5番ニ短調 HWV316
・第6番ニ長調 HWV317
の6曲から構成されている。
合奏協奏曲というとコレッリの作品6が印象的で、コレッリの作品については、さすがにヴァイオリン大国というイメージが強い曲で、弦楽器の美しさに心奪われる。
さてヘンデルのこの曲であるが、弦楽器だけではなく、様々な管楽器が用いられており、またその華やかさから、一聴して「ヘンデル」の旋律というのがすぐにわかる。
合奏協奏曲集作品3の6曲は、1710年代に個別に作曲され、1734年に出版されたもので、楽章構成も様々で、作品としての一貫性はない。
「ヘンデルの合奏協奏曲作品6」より
と「私的CD評」さんの記事では私的されているが、まさにそうなのである。ところがこれが否定的かというとそうではない。いわば、様々な曲が散りばめられていて、色んな曲を楽しむことができるのである。
なお、このCDには、上の作品3以外に、
5声のソナタ変ロ長調 HWV.288
も収録されている。
演奏は、アンドルー・マンゼの後を継いで音楽監督として就任した、アカデミー・オブ・エンシェント・ミュージックによるもの。小気味いい演奏を聴かせてくれる。
この記事を書いたのは、もちろんこの作品を紹介したかったからなのだが、もう一つ理由がある。昨日届いた「アントレ」の10月号にリチャード・エガーのインタビューが載っていたのだが、彼によれば、
目下AAMでは、ヘンデルの作品番号付きの曲集をすべてCDにするというプロジェクトに取り組んでいるんです。リリースは皆ハルモニア・ムンディからです。
とのことである。なおここで問題となるのが、偽作とされる作品である。これについては、偽作とされているものもすべて録音するとのことである。理由については細かく答えているが、簡単に言うと、容易に真偽を決めつけるべきではないだろう、ということである。
別ブログ「The Art of Bach」でもこのところエガーの作品を折りに触れて紹介する機会が増えてきたと思う。実にいい演奏をする人で、実際にコンサート後にサインを頂いた時に少しだけ話したのが、実にいい「おじさま」で、割とひょうきんな人であった。音楽に対する姿勢も、彼の人柄が出ていると思う。かた苦しいところを微塵も感じさせない。彼自身、大学で教鞭をとることをしていないようだが、どうも「学内政治」に追われて音楽に没頭できる余裕がないので、そうした雰囲気があっていないのであろう。そうした自由な精神が彼の演奏には現れていると思う
「Handel Suites de Pieces pour le Clavecin」(ミカエル・ボルグステーデ、Brilliant、BRL93713)
バッハ、テレマン、ヘンデルはドイツ・バロック後期の大作曲家で、それぞれがかなり多くの作品を書いている。その中で、バッハにあって、テレマン、ヘンデルにはない、もしくは数が少ない作品と言えば、クラヴィーア用の作品である。
バッハについては、クラヴィーア作品は、BWV722〜994まであって、オルガン作品と並んで、バッハの作品の中の大きな部分を占めている。それに比べて、テレマンとヘンデルは圧倒的に少ない。わたくしの知る範囲では、テレマンのチェンバロ独奏曲の録音は見当たらない。ヘンデルについては、少ないが作曲しているので、今回紹介したいと思う。
ヘンデルのクラヴィーア作品は、
・クラヴィーア組曲集 第1巻(HWV426 - 433、1720年刊)
・クラヴィーア組曲集 第2巻(HWV426 - 433、1733年刊)
が大きく知られている程度である。これ以外に、
・フーガ曲集(1735年)
・クラヴィーア・ソナタ ハ長調
・やさしいフーガ曲集(1776年頃、死後刊行、遺作)
などが鍵盤曲集として知られているのみである。
ヘンデルはイタリアに留学している際に、チェンバロの名人として名を馳せていたパスクィーニからイタリア風の明るい響きや旋律を学んだとされているので、チェンバロの素晴らしさを知っていたと思うのだが・・・
さて今回紹介するCDでは、
・クラヴィーア組曲集 第1巻(HWV426 - 433、1720年刊)
・クラヴィーア組曲集 第2巻(HWV426 - 433、1733年刊)
が収録されている(CD4枚組)。
CD1
・組曲第1番イ長調HWV.426
・組曲第2番ヘ長調HWV.427
・組曲第3番ニ短調HWV.428
・組曲第4番ホ短調HWV.429
CD2
・組曲第5番ホ長調HWV.430
・組曲第6番嬰ヘ短調HWV.431
・組曲第7番ト短調HWV.432
・組曲第8番ヘ短調HWV.433
CD3
・組曲第9番変ロ長調HWV.434(組曲第2集第1番)
・シャコンヌ ト長調HWV.435(第2集第2番)
・組曲第10番ニ短調HWV.436(第2集第3番)
・組曲第11番ニ短調HWV.437(第2集第4番)
・組曲第12番ホ短調HWV.438(第2集第5番〕
CD4
・組曲第13番ト短調HWV.439(第2集第6番)
・組曲第14番変ロ長調HWV.440(第2集第7番)
・組曲第15番ト長調HWV.441(第2集第8番)
・前奏曲:アレグロ
・『リナルド』より「私は戦を挑み」
この中で、「組曲第5番ホ長調」が「調子のよい鍛冶屋」として有名な曲である。
ヘンデルも相当多作な作曲家であるが、メインとなるクラヴィーア用の作品がわずかCD4枚に収まるというのも不思議である。
この曲集だが、最近廉価レーベルであるBrilliantから発売になったもの。廉価レーベルということで侮ることができない。実に生き生きとしたよい録音である。CD4枚組で3000円弱なので、一般の大手レーベルから出ているCD1枚分くらいの価格である。それでもかなり優れた録音、演奏と言える。久しぶりの掘り出しものという感じである。
蛇足だが、レオンハルトは膨大な数の録音を行っているにも関わらず、ヘンデルのクラヴィーア曲は録音していない。それを聞かれた時に、
「ヘンデルはプリミティフだから演奏しない」
と答えたそうである
演奏:ミカエル・ボルグステーデ(チェンバロ)
使用楽器:
CD1、2;Double-manual Franco-Flemish (after Ioaness Ruckers, grand ravalement, by Fabrizio Acanfora und Thomas Power, Amsterdam)
CD3、4;Double-manual German (after Michael Mietke by jan Kalsbeek, Zutphen)
録音;
CD1、2;2008年1月21〜25日、Remonstrantse Doopsgezinde Church, Deventer, The Netherland
CD3、4;2007年10月10〜13日、Remonstrantse Doopsgezinde Church, Deventer, The Netherland