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シャイト、シャイン、シュッツとその時代〜十七世紀ドイツのコンチェルタンテ様式〜

2008年06月09日

「シャイト、シャイン、シュッツとその時代〜十七世紀ドイツのコンチェルタンテ様式〜」
フィリップ・ピエルロ(指揮)、リチェルカール・コンソート&ラ・フェニーチェ
(RICERCAR、MRIC254)

バッハ、ベートヴェン、ブラームスの三人は、「ドイツ3B」という言い方でくくられる(もちろん、後者二人はバッハに遠く及ばないので、この言い方には多いに異議を唱えたいが)。この言い方とともに、「3S」で称される作曲家がドイツには3人いる。

ハインリッヒ・シュッツ、ヨハン・ヘルマン・シャイン、ザムエル・シャイトの3人である。いずれも17世紀前半に活躍した作曲家である。
音楽史の本を読んでいると、「ドイツは音楽後進国であった」という記述を目にすることがある。これわたくしの感じる限りでは、オルガン音楽を除いて、その他の「器楽曲」の観点からそう言われると思っている。ではドイツはまったくの後進国であって、聴くほどの作曲家はいないのだろうか?今回はそうした疑問を払拭するためにうってつけのCDを一枚紹介したいと思う。

ヨハン・ヘルマン・シャイン(1586-1630)
ザクセン地方グリューンハイン生まれで、ライプツィヒ大学法科の卒業生だが、ヴァイマールの宮廷楽長と、1614年からライプツィヒのトマス教会のカントールをつとめている。つまりバッハの先輩にあたる。若くしてなくなったので、それほどたくさんの作品は残っていないが、
・シオンのシンバル(聖歌集)
・イスラエルの泉(恐らく彼の中で最も有名だろう)
・羊飼いの快楽
・音楽の饗宴
・教会コンツェルト
などが残っている。

ザムエル・シャイト(1587-1654)
1587年11月3日に北ドイツのハレに生まれた(あのヘンデルが生まれた街である)。1603年から1608年までアムステルダムのスヴェーリングに師事した以外は、生涯をハレで過ごした。30歳過ぎから、ハレのオルガン奏者とブランデンブルク辺境伯クリスティアン・ヴィルヘルムの宮廷楽長を兼務している。代表的な作品は、
・タブラトゥーラ・ノヴァ(オルガン・コラール集で始めて5線譜を用いて記載したという、音楽史上大きな貢献をした作品)
・音楽のたわむれ
・宗教歌集(Cantioenes Sacrea, 1620年ハンブルク刊)
・宗教的コンツェルト集
・シンフォニア集
などである。今回紹介するCDでは彼の作品がメインとなっている。

ハインリッヒ・シュッツ(1585-1672)
「3S」の中でも最も有名なのがこの人であろう。後で紹介するがかなり多くの作品を残しており、「ドイツ音楽の父」と呼ばれ、ドイツ音楽史上最初に国際的名声を得た人である。
彼の音楽の基本になっているのは、二回のイタリア留学であろう。1609年のイタリア留学の際は、ジョヴァンニ・ガブリエリに師事し、二回目(1628年)の留学ではクラウディオ・モンテヴェルディに一年間師事している。
一回目の留学から帰国した彼は、ヘッセン方拍モーリッツの宮廷オルガニストになった後、ドレスデンの宮廷に仕えた。2回目の留学から帰国後、30年戦争に巻き込まれたものの、戦後に宮廷楽団が復興したために再び作曲を始めている。
彼の残した作品は、上の二人と比べるとかなり多い。
・ダビデ詩編曲集
・カンツォーネ・サクレ
・シンフォニア・サクレ 第1、2、3部
・クライネ・ガイストリヒエ・コンツェルト
・宗教的合唱曲
・マタイ受難曲
・ルカ受難曲
・ヨハネ受難曲
などである。彼の器楽曲は残念ながら残っていない。作曲していないのか、消失したのかはわからないが、2度に渡るイタリア留学が彼の方向性を位置づけたことは確かである。

さて今回紹介するCDの副タイトルに「コンチェルタンテ様式」という言葉が出てくる。これは、

すべての声部をほぼ均等に扱うルネサンス的ポリフォニー様式にたいするアンチテーゼとして、1600年前後くらいから発展した新しい様式で、いくつかの歌唱パートを独唱的に扱い、他のパートおよび低音楽器群がこれを伴奏するというもの。ポリフォニー様式よりも歌詞がききとりやすく、聴き手の心に直載的に届くものとして愛好され、発展した
CDの解説より

とされている。例えば、シャイトの「宗教的コンチェルト集 第1巻」(1622年)には、その表題として「器楽合奏曲、および奏楽隊[による伴奏]つきadiectis symphoniis et choris instrumentalibus」と続いていることからも、「コンチェルタンテ様式」が3Sの時代に存在したことが伺える。もちろん、これらはイタリア様式の単なる模倣なだけではなく、そこにドイツ・プロテスタントのコラール芸術が融合された独自の音楽なのである。

さて「コンツェルト」という言葉からは、様々な規模のオーケストラが伴奏する独奏楽器のための器楽合奏というイメージが強いが、この時代では、声楽作品のための用語であった。シュッツの「小さな宗教的コンツェルト集」には、「宗教的内容の、複数の演奏者が集う音楽」くらいのニュアンスであった(CDの解説による)。

以下に収録曲を挙げる。

Disc 1
シャイト:〈「宗教コンチェルト集」第1巻〉
1.コンチェルト第12番「わたしの魂は主をあがめ」 (マニフィカト)
2.「音楽の学び舎」〜4声のパドゥヴァン (パヴァーヌ)
3.コンチェルト第5番「今日は聖霊降臨の日」
4.コンチェルト第2番「神を賛美せよ」 (ラウダーテ・ドミヌム)
5.「オルガン新曲集」〜讃歌「来たれ、世の救い主」による4声の合奏曲
6.コンチェルト第6番「天使は牧人たちに言いました」

Disc 2
シュッツ
1.主よ、わたしを憐れんでください
2.神よ、速やかにわたしを救い出し
3.わたしは心を尽くして主に感謝をささげる
4.おお、イエス、いとしき名
5.わたしはあなたに向かって叫ぶ
6.身を横たえて眠り
7.日の昇るところから日の沈むところまで
8.わたしたちは夜通し苦労しました
9.主よ、天を傾けて
ベルンハント
10.深い淵の底から
11.わが心よ、何を思い悩むのか
アーレ
12.街道に出よ、側道に出よ
シャイン
13.我らが主キリストがヨルダン河を訪れ
14.おおイエス・キリスト、神の子よ
15.わたしはあなたに向かって叫ぶ
16.深い淵の底から
クリーガー
17.おおイエス、わがいのち

なお、3S以外に、ヨハン・アルドフ・アーヨ、ヨハン・クリストフ・アーレとヨハン・フィリップ・クリーガーの作品も少しだけ収録されている。後者二人は3Sよりも時代的には少し後になる。ヨハン・フィリップ・クリーガーの作品では、CDの解説でも指摘されているが、18世紀の教会カンタータのスタイルに近く、17世紀初頭の「宗教的コンツェルト」のスタイルは影を潜めている。

ハインリッヒ・シュッツ、ヨハン・ヘルマン・シャイン、ザムエル・シャイトの3人の音楽をわずかCD二枚で網羅することは困難であるが、3Sの時代の音楽がどのようなものであったのかを知るにはよいCDであると思う。それぞれの作曲家が残した作品は、その一曲を紹介するだけでも充分な内容となるため、いずれ機会を見つけて紹介していきたいと思う