音楽の捧げもの(BWV1079)とフォルテピアノ
「The Musical Offering BWV1079, Canons BWV 1072 - 1078, 1086 & 1087」(Martin Jopp, Michael Behringer, Gottfried Von der Goltz, Karl Kaiser, Ekkehard Weber, Daniela Helms, Petra Müllejans, Christian Goosses, Kristin Von der Goltz, Hänssler Classic, 92133)
以前レオンハルトらの演奏による「音楽の捧げもの(BWV1079)」を紹介しましたが、今日は興味深いとわたくしが感じている一枚を紹介したいと思います。Hänssler Classicから出ているものです。
興味深いというのは、チェンバロで演奏されるパートのいくつかをフォルテピアノで弾いているという点です。
この曲は以前に触れた通り、プロイセン大王フリードリヒ2世が提示したと単一主題に基づく曲集。1747年5月、ポツダムのフリードリヒ大王のもとをバッハは訪れました。大王はバッハにジルバーマン制作のフォルテピアノの試奏を請い、バッハが試奏。試奏の後、バッハは大王にフーガ主題の提示を求めます。そこで示したのが、この曲を通して聴かれる「王の主題」。これをもとに即興演奏を披露した、と言われています。後日、この主題による楽曲を楽譜にして1747 年7月7日付けに大王に献呈、さらにいくつかの楽曲をつけたして、同年の9月末に出版されました。この曲の構成は下記の通りです。
楽章編成:
1)3声のリチェルカーレ ハ短調 4/4
2)王の主題による無限カノン ハ短調 4/4(原譜には2段の譜表に記されている。上段が王の主題、下段の旋律がソプラノとバスの音域にわかれ、王の主題を取り巻いて無限に繰り返す)
3)王の主題による種々のカノン(5曲)
a) 逆行カノン ハ短調 2/2
b) 同度のカノン ハ短調 4/4
c) 2声部反行のカノン ハ短調 4/4
d) 2声部反行の拡大カノン ハ短調 2/2(楽譜の欄外に、「のびゆく音とともに王の繁栄の栄えんことを(Notulis crecentibus crescat, Fortuma Regis)」と書き加えられている)
e) 螺旋カノン ハ短調 4/4(螺旋を描くように、一回演奏するごとに一全音高い調へ移行する。ハ短調→ニ短調→變ヘ短調→変イ短調→変ロ短調→ハ短調(1オクターブ上の元の調)となる。「昇りゆく旋律とともに王の栄光の昇りゆかんことを」と書き加えられている)
4)上方5度のフーガ・カノニカ ハ短調 2/2
5)6声のリチェルカーレ ハ短調 2/2
6)2声のカノン ハ短調 2/2(「尋ねよさらば見いださん」と欄外に記された「謎のカノン」)
7)4声のカノン ト短調 4/4(同様謎のカノン)
8)トリオ・ソナタ ハ短調(4楽章)
第1楽章:ラルゴ ハ短調 3/4
第2楽章:アレグロ ハ短調 2/4
第3楽章:アンダンテ 変ホ長調 4/4
第4楽章:アレグロ ハ短調 6/8
9)無限カノン ハ短調 2/2
この内、王の主題による種々のカノンの「同度のカノン」、トリオ・ソナタと最後の無限カノン以外は楽器編成の指定がありません。
さて今回紹介するCDでは、
1)3声のリチェルカーレ
8)トリオ・ソナタ ハ短調(4楽章)
9)無限カノン ハ短調 2/2
の三曲でフォルテピアノが使用されています(それ以外の鍵盤パートはチェンバロ)。手元に楽譜がなりので、楽器が指定されているという部分に「チェンバロ」と記載されているのかわからないのですが、一曲目の3声のリチェルカーレをフォルテピアノで演奏するというのは、ある意味事実に即していると思われます。というのは、この曲は、ポツダムでの即興演奏を楽譜にしたものと見られているからです。となると、バッハはジルバーマン制作のフォルテピアノに対していい印象を持っていなかったと言われているものの、最初にポツダムで演奏された時の「響き」はこのCDで演奏されているようなものであったのではないか?と思われます。
「一般にチェンバロで演奏されるが、ヴォルフによれば、フォルテピアノに適した楽句が多く見られる(バッハ事典(東京書籍))」ともされています。
謎に満ち溢れた曲ですし、上述のように一般的に普及おらず、バッハがいい印象を持っていなかった楽器フォルテピアノをわざわざ想定して作曲するか?という疑問は当然ありますが、当時の「響き」を意図した試みとしては面白いのではないか?と思います


確かに「音楽の捧げ物」の一部の曲、特に3声のリチェルカーレをピアノフォルテで弾くことは、ある程度史実に即しているといえるかもしれません。プロイセンの宮廷で、フリートリヒ大王の前で、与えられた主題をもとに演奏した3声のリチェルカーレを楽譜にしたのが、出版譜に含まれるこの作品と言い伝えられているからです。
出版譜には、トリオソナタとその用紙に一緒に印刷されている"Canon perpetuus"だけが、Traverso、Violino、Continuoと指定されているだけで、他の曲にはいかなる楽器の指定もありません。「私的CD評」で紹介したThomas Consort Leipzigの演奏による「音楽の捧げ物」の項(http://blog.goo.ne.jp/ogawa_j/e/79cbdd098a7408d4ccda4bf877207418)もご参照下さい。
コメント時刻: 2008年07月05日 18:20
コメントありがとうございます。
フォルケルの記述によれば、フリートリヒ大王はフォルテピアノを集めていたとのことですので、バッハもある程度意識はしていたのだと思います。しかし、ピアノ特有の音が苦手なので、何かしっくりきません。
それでもこうして史実をもとに再現してみるという試みは面白いと思いますね。このところHänsslerのバッハのクラヴィーアのシリーズを数枚買ったのですが、中々面白い演奏が多くて楽しんでいます。
音楽の捧げ物の自筆譜ですが、国内でも入手できますかね?解決譜は普通の楽譜売り場においてあるのですが、実際バッハがどのように「謎」を仕掛けたのかをこの目で確かめてみたいです
コメント時刻: 2008年07月08日 08:14
自筆譜ではなく出版譜ですが、ファクシミル版が1977年にライプツィヒのペータースから出版されていますが、ドイツ統一後の現在のペータースには、このファクシミリはありませんので、入手は難しいと思います。新バッハ全集によるポケットスコアはベーレンライターからTP198の番号で出ています。また、旧バッハ全集のPDFが、International Music Score Library Projectのサイトでダウンロードが可能です。
Musicalisches Opfer
コメント時刻: 2008年07月08日 11:25
おはようございます。
コメントありがとうございます。
International Music Score Library Projectですが、また再開されたのですね。
一時期よく利用していたのですが、何か問題があって、一時閉鎖されていて、もはや再開は無理だと思っていました。
貴重な情報、ありがとうございました
コメント時刻: 2008年07月09日 03:25