「J. S. バッハ:リュート=ハープシコードのための音楽集」(エリザベス・ファー、NAXOS、8.570470-71)
録音:2007音8月、アメリカ、マンチェスター、プロガー・ハウス
バッハのリュート作品として知られているのは、
・BWV995 リュート組曲ト短調
・BWV996 リュート組曲(第1番)ホ短調
・BWV997 リュート組曲(第2番)ハ短調
・BWV998 プレリュード、フーガとアレグロ 変ホ長調
・BWV999 プレリュード ハ短調
・BWV1000 フーガ ト短調
・BWV 1006a パルティータ ホ短調
の7曲です。バッハ自身がリュートを演奏したのかはわかりませんが、ヴァイスといったリュートの名手との親交があったことも知られていますし、彼らの演奏技術を知って作曲した可能性もあります。バッハの遺産目録には、リュートを所有したいたこともわかっています。
それ以外に目録に記載されている興味深い楽器が、今回紹介するラウテンヴェルク(ラウテンクラヴィーア、リュート−ハープシコードなどとも言われる)です。
7曲のリュート作品の内、BWV995 リュート組曲ト短調 は、BWV1011 (無伴奏チェロ組曲 第5番)の編曲、BWV 1006a パルティータ ホ短調は、BWV1006 (無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ 第3番)の編曲です。
これ以外の曲については、リュートに使用されていた「タブラチュア譜」の代わりに、鍵盤用の2段譜表が用いられていて,楽譜によって楽器の指定がされています。特筆すべきは、BWV996に関してで、
「リュート・クラヴィアーで Aufs lauten Werk」
と、楽器指定されていることです。上で述べたバッハの遺産目録には、このラウテンクラヴィーアを2台所有していたと書かれています。残念ながら、この楽器が現存しておらず、どのような楽器であるのかは定かではありません。
しかし、近年この楽器を復元する試みがされており、実際に復元された楽器を使った録音を見かけるようになりました。この楽器ですが、チェンバロと基本的には同じですが、「リュート・クラヴィーア」から想像できるように、金属弦の代わりにガット弦が張られています。
この楽器については、「The baroque LUTE-HARPSICHORD: A Forgotten Instrument」に詳しく記載されています。
さて今回紹介するCDですが、このバッハのリュート作品をラウテンヴェルクで演奏したものです。キース・ヒルがその復元にあたっており、それを用いて演奏したもの。上に挙げた7曲以外の曲も含まれます(収録曲は下記の通り)。
CD1
・組曲 ト短調 BWV995
・組曲 ホ短調 BWV996
・組曲 ハ短調 BWV997
・前奏曲、フーガとアレグロ 変ホ長調 BWV998
・前奏曲 ハ短調 BWV999
・フーガ ト短調 BWV1000
CD2
・組曲 ホ長調 BWV1006a
・ソナタ ニ短調 BWV964
・変奏を伴うサラバンド BWV990
上でこの楽器を用いた録音が出てきたと書きましたが、まとまって全曲録音したのはこれが初めてのような気がします。
演奏を聴いてみたのですが、明らかにチェンバロとは違う響きがします。生で演奏を聴いたことがないのでなんとも言えませんが、恐らく大きなホールで演奏するには不向きであると思います。ガット弦を使っているので、音がかなりマイルドになっています。
この曲については、いくつものリュートでの演奏を聴いているのですが、違和感なく聴くことができました。鍵盤楽器で演奏されても何の違和感も感じさせないことから、バッハが2台所有していて、愛用していたともされているので、作曲に際して、この楽器を想定してのかもしれないです(もちろん何の根拠もありません。あくまで演奏を聴いた個人的な感想です)。
演奏は、NAXOSにあまり録音されることのない作曲家を取り上げているエリザベス・ファーによるもの。HMVのサイトでは酷評されていますが、そこまでひどいとも思いません。むしろ子守唄の代わりに聴くのもいいと思いますし、じっくりと聴き入るにも適した演奏だと思います。
またHänsslerにもこの楽器を用いた録音がされています。
「Works for Lute-Harpsichord」(Robert Hill, Hänssler, CD 92.109)
なお、こちらは全曲ではなく、
BWV999, 921/1121, 998, 996, 908, 907, 823, 997が収録されています。ここで演奏しているロバート・ヒルは、今回紹介したCDで使用されているラウテンヴェルクを復元したキース・ヒル氏の兄弟らしいです