「私的CD評」さんの、ウェブサイト、「湘南のバッハ研究室」の中の「J. S. バッハの生涯」に、新しい記事が追加されました。
「第三章 ヴァイマール宮廷のオルガニスト及び宮廷楽士(1708 - 1717)」
豊富な引用をもとに、格調高い文章で構成されています。
これまでの、
序章 音楽一族バッハ家の起源
第一章 幼年時代
第二章 職業音楽家としての第一歩
とあわせて、いずれもウェブだけでなく、pdfファイルでの閲覧も可能となっています
「J. S. バッハ:音楽の捧げもの」(クイケン・アンサンブル、DHM、BVCD-1663)
このブログで以前2度にわたって書きましたが(「BWV1079 音楽の捧げもの」(レオンハルトらによるもの)、「音楽の捧げもの(BWV1079)とフォルテピアノ」)、バッハの作品の中でも、「BWV1079 音楽の捧げもの」はとりわけ好きな作品です。その記事の中で触れましたが、バッハの持てる才能をいかんなく発揮した作品というだけでなく、たくさんの謎が仕掛けられている作品としても有名ですね。
国内でもいわゆる「解決譜」は売られていますが、この作品に対する愛着心から是非自筆譜が見たいと思っていました。以前、「ビブリオポリ」から、「バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ(BWV1001-1006)」の自筆譜を取り寄せたのですが、やはり「音楽の捧げもの」の自筆譜も見てみたいという衝動にかられ、7月の頭に「ビブリオポリ」へ問い合わせをしました。この曲の楽譜は、ベルリン国立図書館に自筆譜があること、オリジナル出版譜が出ていることを「バッハ事典(東京書籍)」を見て知っていたので、取り寄せをお願いしていました。
それ以来一切連絡がなかったのですが、昨日仕事から帰ってきたら郵便局から不在通知が入っていました。それで今日の仕事帰りに取りに行ったのですが、中を見てにんまり。自筆譜と出版譜のコピーでした。A3用紙にコピーされていて、折らないようにとかなり厳重な入れ物に入っていました。
この曲の詳細については、様々な本を読んで知っていましたので、それなりに知識はあったのですが、自筆譜を見ながら演奏を聴くのはまた格別ですね
演奏はクイケン・アンサンブルによるものですが、クイケン兄弟にとっては2回目の録音となります。1回目は、レオンハルトと録音した「BWV1079 音楽の捧げもの」ですが、この録音に際して、シギスヴァルトは、この曲を録音するそうですねと聞かれて、
そう望んでいます。私たちはすでにこの曲を録音していますが(セオン盤のこと)、その発想に誤りがあったと思うからです。例えばカノンの楽器編成などで、オリジナルの楽譜の解釈が間違っていたと感じています。また、この作品が理論的なだけでなく、実際的な音楽であることも気がつきましたし。トリオ・ソナタやあるカノンにははっきりと編成が記されており、全曲もこの4つの楽器の編成で演奏されるべきで、それで十分なのです。ですからこのとてもシンプルな編成でコンサートでも演奏し、それに満足しているのです。
CDのライナー・ノーツより
と答えています。実際に演奏は、クイケン兄弟3人とローベル.コーネンの合わせて4人だけで演奏されています。個人的にはレオンハルト盤が大好きですが、この録音も実に優れており、さすが!と思わせるものです。
演奏;
バルトルド・クイケン(フラウト・トラヴェルソ)
シギスヴァルト・クイケン(バロック・ヴァイオリン)
ヴィーラント・クイケン(ヴィオラ・ダ・ガンバ)
ローベル.コーネン(チェンバロ)
録音;
1994年2月22日〜25日、オランダ、ハーレム、ドープスヘヅィンデ教会
「バッハの生涯と芸術」(フォルケル著、柴田治三郎訳、岩波書店)
現在、バッハに関する書籍は、所謂彼の生涯をまとめた伝記、彼の作品を詳細に述べたもの(事典も含む)など、かなりの数が出版されており、書店に行けばかなりの数を見つけることができると思う。
バッハはご承知の通り、帰天後音楽史から忘れられた存在であった。その彼の死後、バッハについて最初にまとめて書かれたものは、「故人略伝」(死者略伝)と言われるもので、C. Ph. E. バッハがミツラーの「音楽文庫」の中に書いたもので、バッハについて簡単に触れている。これはわずか数ページのもので、バッハを知る上で極めて貴重な資料であるが、バッハについて詳しくまとめたものとしては除外していいだろう。
バッハについて詳しくまとめた最初の本というのが、今回紹介するフォルケルによって書かれた「バッハの生涯と芸術」、
Johann Nikolaus Forkel : ÜBER JOHANN SEBASTIAN BACHS LEBEN, KUNST UND KUNSTWERKE - Fürpatriotische Verehrer echter musikalischer Kunst -
(ヨハン・ニコラウス・フォルケル著 『ヨハン・セバスチャン・バッハの生涯と芸術と作品について』 - 真の音楽芸術の愛国的崇拝者のために - 、ライプツィヒ、ホッフマイスター&キューネル社、1802年刊行)
である。
この本は一般的な伝記とはやや異なっている。その特徴を挙げるとすると、
バッハの家系とバッハの生涯を簡単に述べただけで、主として、バッハの作曲の方法と精神、演奏の仕方、弟子の養成、各地の新説のオルガンの吟味、そしてもちろん作品そのものについて語っている。演奏については特に運指法の新たな工夫を詳しく述べ、ペダル鍵盤やストップの用法については、叙述が具体的にならず、もどかしさを感じさせながらも、バッハの独特な方法と強く暗示しようとしている。バッハの作品となると、当時はまだ公刊されたものは少なく、フォルケルはすべてを知り得たわけではない。しかし知り得た限りの作品については、簡潔に時には熱狂的に、あるいは多くの示唆を含んだ書き方をしている。
巻末の訳者のあとがきより
であろう。
現代においては、インターネットの普及などで、すぐに情報を入手することができるが、当時そのようなものはないために、かなり片寄った書き方をしている部分なども見受けられる。例えばクープランとの比較などを読んでも、フォルケル自身がクープランの作品を詳しく知らなかったことが伺える。
しかしながら、フォルケルがバッハの二人の息子(W. F. バッハとC. Ph. E. バッハ)から、大バッハの日常を色々と聞いていたことは確かであるし(C. Ph. E. バッハとは絶えず文通する仲であった)、バッハを知っている人達から同じように色々と聞いていたことは確かなのである。つまり書き方に偏りがあったとしても、少なくとも現代の我々が昔の資料を探してきて、それをまとめる以外のすべがないことと比較して、バッハ本人ではなくても、その関係者の話しを聞くことができたという点は非常に大きい。その意味でこのバッハの伝記は極めて貴重な資料であると言える。
フォルケルはバッハについて、かなり熱が入った書き方をしている。この本の冒頭で、
音楽芸術そのものにとって、あらゆる面で非常に有利であるだけではなく、その種の何物にもまして、ドイツという名の名誉になるはずのものである。ヨハン・セバスチャン・バッハがわれわれに遺した作品は、他のどんな国民もこれに類するものを呈示することのできない、極めて貴重な、国家的遺産である。それが誤った写しによって歪められたり、そのようにして次第に忘却され、遂には湮滅するという危険から救い出す者は、この芸術家のために不滅の記念碑を建て、祖国の功績を立てることになる。
と書いている通りである。彼の頭の中にあるのは、
ドイツ内外のすべての芸術家の中の第一人者の崇高な芸術を、なんとかして正当に叙述することができたら、と思う!
ということであろう。しかしその一方で、
あのような芸術の高い価値と驚くべき広さについて語りうること、語るべきことを、余すことなく表現できるほど豊かな言語は、この世に存在しないことを、心底から確信している。彼の芸術によくなじめばなじむほど、それに対するわれわれの驚嘆は高まる。それに対するわれわれの賞賛も賛美も感嘆も、気の良い舌たらずの片言にとどまるだろう。
と冷静な判断をしている。この文章は、毎日バッハの曲を紹介するときに常に感じることである。あの崇高な音楽をたかが簡単な言葉で表現できないのである。本音を言えば、「実際に演奏を聴いて、感動してください」としか言えないのである。
さて本書の内容であるが、
第1章:バッハ一族
第2章:バッハの生涯
第3章:クラヴィーア奏者としてのバッハ
第4章:オルガン奏者としてのバッハ
第5章:作曲家としてのバッハ(一)
第6章:作曲家としてのバッハ(二)
第7章:教師としてのバッハ
第8章:バッハの性格
第9章:バッハの作品
第10章:推敲するバッハ
第11章:バッハの精神
から成っており、ここに訳者注が折に触れて挿入されている。また巻末に、(いずれも簡単なものではあるが)バッハ年譜、バッハ家の系図、主な作品一覧が載っている。
フォルケルの文章の中には、上で述べた「故人略伝」からの引用がかなり含まれていて、バッハ以外の情報が入手しにくい時代であったことを差し引けば、バッハについて実に信憑性のある伝記であり、それが世界最初のものであると言える。
たくさんのバッハの本が出版されているが、一読すべき本であると確信している。以前紹介した「バッハ=魂のエヴァンゲリスト」(磯山雅著、東京書籍)と並んで、繰り返し読んだバッハに関する書籍である
「バッハの風景」樋口 隆一 (著) 、小学館
昨日、今月に入って初めての休暇だったので、本屋さんに行って見つけました。
小学館の『バッハ全集』(全15巻CD156枚)の刊行委員の一人でもある、バッハ研究者、樋口隆一氏のバッハ論の集大成である。樋口氏が初めてドイツに行ったのは1972年、当時26歳の大学院生、東西冷戦のさ中のライプツィッヒに着いたときの感動から、氏のバッハ研究は始まる。日本におけるバッハ受容はこの間、大きな変化をとげる。宗教音楽として敬遠されがちだったカンタータは、今日多くの聴衆の聴くところとなった。樋口氏は勤務先の明治学院大学で自らバッハ・アカデミーという演奏団体を設立し、指揮者として2000年より活動を続けている。'06年6月にはライプツィッヒのニコライ教会でカンタータを演奏する。氏のバッハに対する思いは深く、本書は平明な語り口の中に、隅々までバッハに対する愛情のあふれた本である。 (アマゾンの書評より)
バッハの本については、どれを読んでも面白く、知っている内容でもつい買ってしまいますね。読み出したところですので、まだ感想は書けないですが、中々興味深いです
「バッハ=魂のエヴァンゲリスト」(磯山雅著、東京書籍)
バッハについての書籍はたくさん出ていますので、どれが一番よいのかと言われると困ってしまいますが、今回はこの本を紹介したいと思います。
バッハ研究の第一人者である磯山雅氏によるバッハの解説書。バッハに興味を持って、初めて買ったバッハに関する書籍。それから20年近く経ちますが、未だにことあれば開いて読んでいる本です。残念ながら絶版になってしまったみたいです。
バッハの生い立ちから、作品についての紹介まで、この一冊を読めば大抵のことはわかってしまう感じがします。巻末のバッハ作品一覧と、そこに記載された録音の紹介も実にためになります。もちろん諸般が出た1985年からかなり経っていますから、CDについては廃盤になっているものもありますし、新しく録音された素晴らしい演奏もありますが・・・。
この本を買い、バッハの曲をたくさん聴くようになり、どんどんバッハに傾倒していったわけですが、それ以来たくさんのバッハに関する書籍を買って読みました。でも、やはりこの本が一番です。
わたくしが、「古楽器」というカテゴリー、レオンハルトという孤高の演奏家を知ったのもこの書籍のおかげです。今このブログをつらつらと書き綴っているのも、この書籍がなければありえなかったでしょう。改訂版が出ることを期待しています。磯山先生の本はどれもお勧めです